大学の入学式の日。
式が終わったあとの昼休み、説明会を控え、学部の人々が教室に集まっていた。
ひとりでぽつんと席に座っていると、うしろから「ひとり? 一緒にごはん食べよ」と声をかけられた。
声の主は、金髪・でかいカラコン・つけまつげ・ベージュのリップと、まごうことなきギャルだった。
10年前の話だ。
私は青文字系だった。
ボブ・ぱっつん前髪・青みピンクのチーク・赤リップ。
入学式が終わったばかりだというのに、もうグループができはじめている様子だった。
ギャルからの誘いに「有難てぇ」と思った記憶がある。
ギャルが集めたメンツと昼食をとった。
ギャルは私の他に4人誘っていた。
見た目から察するに、趣味嗜好が全然違うだろうなぁと思わせるメンバーだった。
ギャルが先陣を切って喋りはじめる。
「自己紹介しよ。なにが好き? 」
第一印象の通り、ジャニーズ、K-POP、邦ロック、アニメ……と、みんなバラバラだった。
すごかったのは、ギャルがそれぞれの話を “理解” していたことだ。
「コミュニケーション能力が高くて知らない話にもついていける」という感じではなく、嵐からSUPER JUNIOR、SEKAI NO OWARIやエヴァンゲリオンまで完全に網羅していた。
他のメンバーが「へぇ~、そうなんだぁ(知らない)」と相槌を打つなか、ギャルは「SUPER JUNIORといえば~」とか「エヴァのあのシーンは……」と話を深掘りしていく。
私の番になった。
「毛皮のマリーズってバンドが好き」と言った。
ギャルは、「毛皮のマリーズってTHE BAWDIESと仲いいじゃんかぁ」と完璧に “知っている” 人間にしか出せない情報を繰り出してきた。
毛皮のマリーズの話ができる人に初めて会い、テンションが上がった私は、志磨さんとROYさんが『ROCKIN’ON JAPAN』で対談した話などをした。
ギャルは「うんうん」と聞いてくれた。
「毛皮のマリーズの話ができる人って初めてなんだけど、なんで知ってるの? 」と尋ねた。
ギャルは「知り合いにロックンロールが好きな人がいる」と言った。
“ロックンロールに理解のあるギャルちゃん” である。
どうもそのギャルは、コミュニケーション能力の高さから交友関係が広く、そのため様々なジャンルに対する造詣が深いようだった。
ポテンシャルが高すぎておののいた。
翌日、ギャルは大学に来なかった。
すぐに辞めたと風の噂で聞いた。
その後、私は軽音サークルに入った。
「毛皮のマリーズが好き」と言うと、そこの連中は決まって「あぁ~、YouTubeのおすすめ欄で見たことがある」と返事をした。
いっそのこと知らないと言ってくれ、と思った。