続・『海王星』のこと。
(↓前回はこちら)
【ギリシア古詩について】
戯曲の冒頭とパンフレットの見返しに引用されているギリシア古詩は、グラウコスによるもの。
ギリシア神話には同名の海神がいます。海神→有名な海神といえばポセイドン→別名ネプチューン→海王星、と連想してしまいます。
しかし、作者は関係なさそうですね……。戯曲・パンフレット共に記載がないので。
原詩には「エラシッポスの墓」とされていますが、「エラシッポスの」が削除されています。
エラシッポスについて軽く調べてみましたが、ギリシア神話に登場する誰か、ということしか分かりませんでした。
この詩は呉茂一『増補 ギリシア抒情詩選(1952年、岩波書店)』より引用とのこと。パンフレットに書いてありました。
増補ではない『ギリシア抒情詩選(1938年、岩波書店)』には載っていません。
『ギリシア・ローマ抒情詩選(1991年、岩波書店)」には載っています。
【船名について】
物語の終盤、彌平は『海王丸』という名の船の機関長に就任します。
猛夫曰く、「お父さんは自分の船が欲しかった。それに僕の名前をつけたかった」。
劇中で “ブルースを唄う老婆” のセリフで、猛夫を双魚宮としています。
つまり、猛夫は海王星が守護惑星なのです。
彌平が “海王” を冠する船で服毒自殺を遂げたのも、同じく “海王” を冠する惑星を守護に持つ猛夫との心中の暗喩ではないか、と勘繰ってしまいました。
でもまあ、『海王丸』って名前の船、よくありそうですね……。
寺山さんがどういう意図を持って名付けられたのは謎です。
(↓富山県には『海王丸パーク』なる所があります。『海王星』は1月15日と16日に富山県で上演)
物語の終盤、鳥類言語学の今西教授が北海岸のホテルから出る際に乗る船の名前を『鷹羽丸』と言っています。
命名の由来はあるのでしょうか。
こういう物語に直接関係のないさりげないものの名称は本当に気になります。
彌平の会社の名前が北海運株式会社なのも気になってきました。
【『ミトリダート』について】
寺山さんが『海王星』の下敷きにしたのは、ラシーヌの『ミトリダート』とのこと。
ミトリダートには「解毒剤」という意味があります。
これは、ミトリダート=ポントス王国国王・ミトリダテス6世が毒殺を恐れ、自らに少量の毒を投与し続け、毒への耐性を作ったことから由来するそうです。
「解毒剤」を意味する『ミトリダート』を下敷きに書いた戯曲で毒死を扱うってなんの因果……!
もしかしたら『ミトリダート』自体がそういうお話なのかもしれませんが。
『ミトリダート』をすこし読んでみたのですが、私には難しかった……。無念……。最後まで読めませんでした。
死んだと思っていたお父さんが生きて帰って来る、という導入は同じでした。